雑記別冊―チャリで渋峠を越えた話2

あらすじ

群馬と長野の県境、日本国道最高到達地点である渋峠ロードバイクで越える為、朝のうちに長野原草津口駅を出発。
ところがローペー(ロードバイクペーペーの略)な僕達は序盤の林道小雨線の傾斜と水不足にすっかり心身をやられてしまい、色々な言い訳をつけて、いち通過地点だったはずの草津温泉に泊まることにした。詳しくは下記URLより。

7/23(金)草津渋峠湯田中

朝の3時半に起き、4時半にはユースホステルを出る。
本当に寝る為だけに泊まったような宿だった。次は温泉も付いているようなもうちょい旅館らしい旅館に泊まりたいけど、それはそれで勿体無くてこんな時間に出ることはできないだろう。

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湯畑近くのコンビニで補給食や飲料を買い込んだ後、天狗山ゲートを抜け、草津温泉スキー場の隙間を縫うようにして、つづら折りの292号を行く。斜度は平均で6%程度、前日の件もあったからある程度覚悟はしていたが、優し過ぎず厳し過ぎずといった塩梅だ。
黙々と登り続ける。夏とは言えども草津、しかも朝焼け間際の早朝だから空気が涼しい。一日休めたおかげで疲れも無く、高木が目に付かなくなり、代わりに白樺が増えてきたりと、着実に高所へ向かっている感覚に気分が乗る。

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この辺りを境に、視界が一気に開け始める。緑の壁が終わり、高原が広がる。その向こうに、これから登るであろう嶺の連なりが見える。
しばらく走ると殺生河原という物々しい名前の区間に差し掛かり、看板が現れる。

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硫化水素発生地区につき、道路上に立ち止まらないで通過してください。
確かにこの辺から、既に腐卵臭が鼻につく。そりゃこんなところで立ち止まって写真でもパシャパシャ撮ってようものなら、即座に気分が悪くなること請け合いだろう。そもそも自転車でダラダラと坂道を登っている時点で結構な空気を取り込むことになるが、そこは大丈夫なんだろうか。
この先の草津白根山が活火山だから、この辺から渋峠までは冬季封鎖も含めて度々通行禁止になる。そもそも冬季封鎖が解けて規制無しの全線開通になったのが今年の4月下旬で、実に4年ぶりの話だったらしい。案の定まったく下調べをしていなかったから後で知ったことだったが、何て言うか、運が良かったんでしょうね。

硫化水素が噴き出す岩肌を横目に坂道を登り続ける。斜度はさほど変わらずだが、普段まず目にしない光景の中にいると、そっちに気を取られてあまり苦を覚えることもない。

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殺生河原を抜けると、あとは見晴らしの良い高原が続く。
高木が一切無いから、さっきまで自分が登ってきたつづら折りを遥か向こうまで見通せる。こうやって写真に収めると斜度がえげつないように見えるが、特に急激にきつくなった感じもない。

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草津白根レストハウスには7時頃の到着。規制解除後も営業を再開しておらず、敷地の入り口にはロープが張られて中に入ることができない。まあ、仮に営業をしていたとしても9時から開始だから、どのみち意味は無い。
レストハウスから未舗装の道を数分歩くと、湯釜というエメラルドグリーンの火口湖を拝めるが、例によって入山規制で辿り着けない。ところどころに設置されている防災無線から、無機質な声で「危険だから道路の外に寄り道するな」という旨の放送が絶えず流れてくる。特に何もしていないのに後ろめたい気分になる。
どうも道路傍にある弓池には立ち寄りができるらしく、鏡面に映える緑が綺麗だ。

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間を置かずして一時的な下り勾配に差し掛かり、万座温泉毛無峠に向かう466号線が分岐する。毛無峠とはネットで散々こすられた、砂利道にボロボロの「群馬県」と「この先危険につき関係者以外立入禁止」の立て看板の、アレが見られる場所だ。
今まで稼いできた獲得標高が下りであっと言う間に減っていくが、数分もせずに無事元の登坂に戻る。とは言え何だか損した気分になるな。

それにしてもこの景色だろう、完全にアルプスの少女ハイジだ。600mからのスタートとは言え、普通なら自転車で見に行けるような景色ではない。中央分水領も通り過ぎて、いよいよゴールが目前に迫って来る。

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ゴール。日本国道最高地点、標高2172m。
5時前に湯畑のコンビニを出て、8時前に到着。ダラダラと約3時間、ローペー(ロードバイクペーペーの)にしては上出来、って言うか、到着できただけで上出来だろう。
傾斜は全体を通してもほぼ一定、たまにきついヘアピンがある程度で、激坂と呼ばれる類のものは一切無い。何だったら、個人的には漕ぎ始めの湯畑から天狗山のゲートへ至る道が一番きつかったかもしれない。
何より助かったのは、短い距離の中でも標高が上がるにつれ景色が目まぐるしく変化する上に、高木が少なく見晴らしが良いから、気力やモチベーションを削がれることがないところだ。同じ距離で昨日のような林道が延々と続くとしたら、恐らく半分も持たなかった。

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高所を物語るカロリーメイトの袋。勿論草津を出た時点ではここまで膨れ上がっていない。飛行機の中でよく見られる現象だが、2100mそこらでもこうなってしまうのか。

石碑から若干下って数百m先に、渋峠ホテルがある。群馬と長野の境に建てられたホテルで、ここで到達証明書を100円で買うことができる。スキー客の遭難対策として建設された経緯があるらしく、外も中もホテルと言うよりは大規模な山小屋といった雰囲気だ。

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ホテル横から横手山頂に登れるリフトが出ており、そこでは日本一高所に位置するパン屋が営業している。9時半頃の段階で店内は大分賑わっていたが、レジと料理出しをワンオペでやっているもんだから相当忙しそうだ。
野沢菜パンとカスタードパン、アールグレイの紅茶を注文した。時間的には朝食だが、もう起きてから6時間以上経つから、一体何の飯なのか感覚がバグってくる。

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渋峠ホテルに戻って、絶叫ダウンヒルが始まる。あがああああとかおひょおおおおとか言いながら、硯川や志賀高原が秒で過ぎ去っていく。事故らないことに精一杯で、沿道の景色を見る余裕が無い。
やがて冷えた向かい風に生温さが入り交じり始め、ふもとに下りた時には完全に温風に切り替わっていた。夏の高原の涼しさが早くも恋しくなる。

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渋温泉に立ち寄る。温泉街、川、空、入道雲、どこを切り取っても紛うこと無き夏景色。
立ち並ぶ旅館を右に左に拝み倒しながら悠々のウィニングラン。大した距離も漕いでないくせに、何かを成し遂げた気分に浸っている。

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長野電鉄湯田中駅渋温泉から目と鼻の先で、駅に温泉が併設されている。これ幸いとばかりに自転車を停めて温泉に入り、この時点で自転車はお役御免。お疲れ様でした。
昼前にライドを終えられると、心の余裕がまったく違う。これからはキャノンボールチャレンジとかそういう馬鹿で無謀なことを考えるのはやめて、楽しくてゆとりがあるようなライドをしよう。絶対そっちの方がいい。本当。

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長野電鉄の特急に乗って、長野へ向かう。
やって来たのは、いつしか横須賀線からいなくなったコレ。こんなところで走っていたのか。空港アクセス用車両の名残で大きな荷物スペースも残されており、頑張れば輪行袋も突っ込めるのが嬉しい。

電鉄の長野駅には手荷物の預かりサービスがあり、500円出せば輪行袋も預かってくれる。輪行袋を持ったまま観光ってのはどう考えても現実的じゃないから、一気に身軽になれて有難い。

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京都も甲府もそうだが、盆地の夏は熱が籠もるせいで実際の気温の2割増しくらいで暑い。熱気にへばりながらノロノロ善光寺へ行き、道中かき氷を食べたりしながら長野駅へ戻る。

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奇しくも長野は98年冬季五輪の開催地。こんな地方でもTOKYO 2020の大パネルが飾られるのかと思って近寄ってみたら、五輪は五輪でも23年前の話だった。時期が時期なだけに紛らわしい。
19時過ぎに出る新幹線まで大分時間があったから、駅ビル内の明治亭で早目の夕食を摂る。駒ヶ根名物ソースカツ丼、長野県内に4店舗しか無いらしい。

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ヒレソースカツ丼、牛丼のノリで大盛を頼んだら、本当に大盛が来やがった。キャベツの層が厚すぎて米に辿り着かない。
死ぬんじゃないかと思いながらなんとか完食したが、流石に学生の頃のように安易に大盛を頼む時代は終わったのかもしれない。味は勿論美味かった。

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輪行袋を引き取って、帰路に就く。19時過ぎに長野始発のあさま、人の流れがいまいち分からなかったから手遅れになる前に自由席を確保しようと大分早い段階で並んでいたが、結局長野県内は始終ガラガラで拍子抜けした。
それにしても最近の新幹線はカッコいいな。僕が子供だった頃に500系の写真なんかを見て、鼻がメッチャ伸びていて凄えなんてことを思ったりしたが、その頃の憧れを少し思い出したような気がした。

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2日かけて、総走行距離は約60km。獲得標高は1500m程度。
最初の林道小雨線だけが大誤算で、あとは適度な坂が適度な距離で並んでいる印象。ローペー(ロードバイクペ)の僕でもあまりメチャクチャきつい印象を覚えずに登り切ることができた上、絶景と非日常感で山ほどお釣りが返ってくるイメージ。コレは楽しいです。
今回は夏の時期だったから、有名な雪の回廊は当然拝めず。次訪れるとしたら来年のGW辺りだろうか。あと毛無峠にも行きたいし、いずれにせよ一回きりで満足するにはもったいない。

そういや輪行袋がそのままだな。結構汚れも厳しいだろうから掃除もしないとだし、これを書き終えたらやってしまうか。面倒だなあ。