雑記27

こんなものを3回連続で書いてしまったから、通常運転に戻るまで一ヶ月と半分掛かった。もう二度とやらねえよ、こんなの。

HOW TO GO、あるいは超どうでもいい思い出

もう一ヶ月も前の話だが、くるりのライブに行った。本当は去年開催されるはずだった「特Q」の野音公演に行きたかったのだが、チケットを取るか取らないかを考えているうちに、緊の急の事の態宣言で、ツアーごと潰れた。
それから一年が経った。新譜「天才の愛」もリリースされ、小規模だがツアーも有観客での開催が決まり、やれ嬉しやとZepp Haneda公演の、2日間あるうちの初日のチケットを取ったのだった。
全席指定、僕は前から大体6、7列目の真ん中辺りで、バンドを見渡すには中々いいポジションだった。Zeppの1Fに指定のパイプ椅子がずらと並ぶ光景はミスマッチだが、くるりくらいのバンドだったら、この方が落ち着いて観られるかもしれない。

f:id:sonotenoyatsu:20210714224018j:plain

ふいに思い出したので、どうでもいい思い出話をする。
くるりをまともに聴き出したのはここ数年の話だ。大学時代も東京とかワンダーフォーゲルとか、あの辺の有名な曲を聴きながら「多分俺が好きなタイプのバンドなんだろう」と思いつつ、積極的に聴こうとはしなかった。

転機は大学4年の2月、卒業間際の話、僕はあらゆる事情が重なってやけのやんぱちになっており、どこか東京じゃない景色でも見に行くかと、ロクに金も無いのに夜行バスで京都へ行った。そこで現地の知り合いに観光に付き合ってもらったりなんだりして、そこそこ楽しい時間を過ごさせてもらった。
そしたら、金が無くなった。本当の本当に無くなったので、晩飯を食う金すら無い。
クレカは持っていない。口座にはひょっとしたら500円くらいあるかもしれない。せめてそれだけでも引き出そうと思ってATMへ行ったら「営業時間外だから札しか引き出せねえよ」と言われ、いよいよ無縁の地で独り、何もできなくなった。この時ばかりは流石に己の無計画さと情けなさに泣きたくなった。
20時、京都駅、持っているのは東京行の夜行バスのチケットだけ、バスの出発は23時。3時間、一文無しでどう暇を潰せと。何かの間違いで札でも湧き出てやしないかと財布をもう一回眺めたら、140円だけあった。140円。140円で何かできることを探せ。
辿り着いた結論としては「駅の入場券を買って、ホームのベンチで電車とか見ながら暇を潰そう」だった。今思えば正気じゃないが、もう何でもいいから居座れる場所が欲しかったんだと思う。

f:id:sonotenoyatsu:20210718155243j:plain

京都駅は帰宅ラッシュだった。ホームを行き交う影は忙しなかったが、僕はただひたすらに暇だった。
折角京都で無為な時間を過ごすんだから、京都らしいバンドでも聴こうと、くるりのベスト盤を聴きながら、サンダーバードが到着して人が降りて乗って行って、新快速が到着して人が降りて乗って行って、関空特急はるかが到着して人が降りて乗って行って、それをずっと眺めていた。

f:id:sonotenoyatsu:20210718155210j:plain

もう何も考えずにぼおーっとしていると、やがて「HOW TO GO」が始まって、歌詞を頭の中で追っていると、別に思い出したくもないのに色々なことを思い出した。恥をかいたことだったり、人に助けてもらったことだったり、人に悪いことをしてしまったことだったり、世話になった人達の顔なり、もう二度と顔も見たくない奴らの顔なり、とにかくあらゆる記憶が僕の右から左へと抜けて行った。走馬燈を見るとするならば、多分コレがもうちょいダイナミックになったものだろうと思った。

f:id:sonotenoyatsu:20210718155226j:plain

結局僕は京都駅のホームで3時間を過ごした。どうも入場券は入場してから90分まで有効らしく、駅員に怒涛の関西弁で時間超過を詰められ、半泣きになって京都を離れた。
ともかくとして、この経緯があって、僕はくるりというバンドを意識して聴くようになったし、とりわけHOW TO GOは大学生活を締めくくる、大変思い入れの強い曲になった。

それから3年半が過ぎて、初めて観たくるりのライブは大変素晴らしいものだった。
とにかく曲が良かったし、何より日々異常事態が続く中で、どこまでも優しかった。僕はここ10年の岸田繁という人間の、ヒネてヒネてヒネ続けた先にようやく持ち合わせた優しさを何より信用している。特にアンコールラストの「奇跡」を聴いて、それは多分間違っていないだろうなと、強く思えた。
アンテナから「花の水鉄砲」も聴けた。「ロックンロール」も「東京」も聴けた。新譜からは一番好きな「潮風のアリア」をやってくれた。新曲も2曲聴けた。演奏も良かった。総じて大満足だった。

でもHOW TO GOやってくれなかったな、まあそんなに頻繁にやる曲でも無さそうだしな、と思いながらネットニュースで2日目のセットリストを見たら、初日の東京と日替わりで演奏されていた。
こんなことがあっていいはずがない、俺はもう岸田繁を一生許さない。