雑記13

I hear A New World

フィル・スペクターが亡くなった。獄中で新型コロナにかかってしまったらしい。現代ポップスを代表する名プロデューサーにしては、あまりにも寂し過ぎる最期だ。
この人がどれだけとんでもない存在だったかは、山下達郎のサンデーソングブックを聴きゃいい話なのでここでは特に何も言及しないが、どんなに類稀なる才能を持っていたとしても、心が壊れてしまうとその後の人生は中々難しいものがあるのだなとはつくづく思う。

フィル・スペクターと同時期に活躍して、やはり精神の病をこじらせてしまったプロデューサーに、ジョー・ミークという人がいた。
The Tornadosの大ヒット曲、Telstarのプロデューサーだ。今では当たり前になったリバーブエフェクトをポップスに持ち込んだ、最初期の人間だった。

ラヴィオリン(多分最古の部類の電子鍵盤楽器)をメインに据えたそのサウンドは今聴くとレトロフューチャーそのもので、この先何十年と生きようが、恐らくこの曲が持っている未来観には永久に追い付けない。
これが62年に発表されたと知った時は嘘だあと思ってしまった。ガーション・キングスレイのPopcornが69年に作られたものだと聞いた時と同じくらいのショックがあった。俺が勉強不足なだけで、ひょっとしたら62年当時はコレと同じようなサウンドが大流行りしていたのかもしれないが、多分そんなことはないと思うんだよな。

その後もジョー・ミークはプロデューサー業を続けていくがうまく行かず、次第に「誰かが俺のアイデアを盗もうとしている」という典型的なパラノイアに憑りつかれる。
年を追う毎に病状は悪化し、終いには自宅の家主を拳銃で殺した後、自らも撃ち抜いた。それがバディ・ホリーの飛行機事故死、所謂「音楽が死んだ日」と同日の2月3日だったと言う。

上の曲はジョー・ミークが60年に発表したI Hear A New Worldと言う曲だ。レンジを振り切ったように深く潜るエコーをバックに、帰ってきたヨッパライ的なテープ早回し音声が交差する。これを幻想的と紋切り型の言葉で切り捨てるには、少し危なっかし過ぎる。
今から60年前にこの音を作り上げるには、どれほどの時間と労力と執着心が必要だったかを考えると、ぞっとする。言い方は悪いが、よほど神経質で偏執的でなければこんなものは作れないだろう。もっとも、それこそが彼を自死に至らしめる遠因になってしまったのかもしれない。

フィル・スペクターが女優を殺害して逮捕された日も、2月3日だった。あまり運命とか数字の妙なんてものは信じないクチだが、これくらい面白い話があってもいい。

雑記12

ああああああああ!

昨年末からランニングに凝り出し、アホみたいに寒い中で10km前後を週3回くらいのペースで走っている。
いつだったか「来る健康診断の為に嫌々走っている」と書いたが、いざ診断当日になってみると体重は減り腹囲も細くなっていたので、これはランニング様様だと調子に乗ったのだ。長い距離にも大分慣れてきたから、年内にはそれほど敷居が高くないようなハーフマラソン大会にでも参加してやろうかと思っている。

手足を動かしたり方向を確認する為に使う最低限の思考を除けば、正味1時間程度のランニングで、脳味噌はその分だけ暇になる。意識してそうしているわけはないが、僕は昔の話を思い出していることが多い。それも嫌な記憶が浮かんでくることがとても多い。
別に「恋人や親友と仲違いしてしまったまま死別してしまいました」みたいなシリアスな話じゃなく
「変な服を自慢気に着て歩いてました」とか
「完全に間違った情報を知ったかぶって人前で自信満々で話していました」とか
「ウケるだろうと思って大声で叫んだ一言で場の空気が凍りました」とか、そういった恥の記憶の類が何故か圧倒的なリアリティを以て思い出される。
一つ思い出す度に、叫びたくなる思いを堪えて舌打ちをする。また一つ思い出して、また舌打ちをする。これが続くと、傍目から見ればただのヤバい奴である。

唐突に己の恥の記憶を思い返して叫びたくなるというのはどうも僕だけではないようで、ついこの前読んだ遠藤周作のエッセイにも、ほぼ同じようなことが書かれていた。大体こんな感じだ。
「ある夜、隣の部屋から枕に顔を埋めたような男の呻き声が聞こえる。アレは体の調子が悪いわけではなく、昔の自分の恥を思い出して居た堪れなくなっているのだ。この経験は君達にも一度はあるだろう、無い者とは友達になれん」
遠藤周作もこう言うのなら、何も恐れることは無い。そう言えば「勘違いの連続が僕達の人生」とandymoriの小山田も歌っていた。だから当然君達にもあるはずだ。心当たりのある人間から、今夜辺りにでも順番に叫んでいくといいと思う。

雑記11

イヤのホン

昔からイヤホンを壊しまくる男で、有線ケーブルを使っていた頃は半年に1回のペースで葬り続けていた。
初めてオーディオプレイヤーを手にしてから10年くらいして漸くワイヤレスに乗り換えたわけだから、概算で20本は壊していることになる。そう計算してみても意外と大袈裟じゃないと言うか、思い返してみればそんなもんだろうなと納得できるくらいだから悲惨だ。
どんなに丁重に扱おうが半年経てばどこかしらが断線するから、じゃあ最初から安いものを買っちまった方が負債は少なくて済むと、しばらくはコンビニで1000円で買ったゲロみたいな音質のイヤホンを愛用していた。どんな曲でも中音域を潰して極端なドンシャリに仕立て上げてくれる、魔法のイヤホンだった。少なくともこいつは1ダースくらいは消費したので、安かろうが悪かろうが僕の相棒ではあった。

僕がドンシャリと愛し合っている最中にも技術の発展は目覚ましいもので、気が付けば周りの人間はBluetoothを巧みに使いこなし、ワイヤレスイヤホンを首からぶら下げていた。
これは凄いなとそいつらに言うと、フルワイヤレスイヤホンはもっと凄いと返された。左右が独立していて、耳栓のようなつくりをしていると言う。最初からケーブルが無けりゃ、断線の心配をする必要も無い。これはもっと凄い。何故今まで手を出さなかったのか悔やまれた。

とりあえず有象無象の安い機種の中でも評価が高いアンカー製のものを買った。
安いと言えど5000円、コンビニのゲロイヤホン5本分の値段である。ならば耐久性もゲロイヤホン5本分の2年半でなければなるまい。期待していたが、簡単に裏切られた。半年経って、左耳が完全に機能しなくなった。半年クラッシュ記録の更新だ。
最初にこのイヤホン越しに曲を聴いた時は感激した。これがBluetoothか、文明は人を豊かにするものだなと本気で感激したのだが、半年でイカれちまうものに世話は無い。

左耳がイカれたのなら、左右が繋がっているタイプのものならどうだろうと、次に買ったのはAKGの一番売れているやつだった。価格はアンカーの3倍、1万の大台を軽く超えた。15ゲロイヤホンと書くと、その凄まじさが分かると思う。

確かに左耳だけ聞こえないなんてことは無くなったが、これも半年してリモコンが効かなくなった。あまりにも動かないもんで腹が立って中身をこじ開けたら、小さなバネがそこから飛び出して、部屋のどこかに消えた。それを見て、諦めた。

次に買ったのはRHAの中でもリーズナブルでとりわけ評判がいいやつだった。今回は大分値段が下がり、10ゲロだった。

御多分に漏れず、半年でブチ壊れた。これもリモコンがうまいこと機能しなくなったと思ったら、間を置かずして左耳からノイズが走るようになり、それはやがて右耳に広がった。最後にはか細いノイズを残して、何も聞こえなくなった。

有線だろうがワイヤレスだろうが、僕の手元に来ればイヤホンはちゃんと半年で壊れてくれる。僕は半分ヤケになり、いっそのこと一つ試してみようと思った。
今まで買ったことないくらいの高級なイヤホンを買い、それでも尚壊れるなら僕の勝ちとする。壊れずに現役で頑張ってくれれば、イヤホンの勝ちとする。壊れら壊れたで僕の勝利だから気分がいいし、壊れないなら壊れないでそれに越したことは無い。WIN-WINの天才的な発想だった。

Bose SoundSport Free wireless headphones 完全ワイヤレスイヤホン トリプルブラック
 

BOSEのSOUNDSPORT FREE。しばらくぶりの完全フルワイヤレス。音質は流石に天下のBOSE、おまけに防水、防滴、衝撃にも強い。値段は驚愕の25ゲロ。
結論から言うと、半年もしないうちに左耳がおシャカになった。さっきの話で言えば僕が勝ったことになる。気分がいいわけがない。25000円だぞ、マジでどうしてくれんだよ。
こればかりは流石に買い替える気が起きず、カスタマーセンターにメールを入れた。すると後継機が既に出回っている関係上、補償の対象外になっているらしかった。その代わりに後継機を安く売ってやるから、それを買えと言う。ふざけんなと思いつつ、本来24ゲロのところを17ゲロで買った。僕の敗北だ。ゲロカスゴミクズ卍Xだ。

僕のイヤホンの扱い方が根本的にイカれているのか、そうでもなけりゃイヤホンの神様に呪われているのだと思う。
早くお祓いに行ってやらないと、次のイヤホンだって半年も持たないに決まっている。どこにあるって言うんですか、イヤホンの神社。

雑記10

先週は大体仕事をしていました。
今週も大体仕事をするつもりです。来週も、多分再来週も。

年始大掃除

数年前から計画を立てていた我が家のリフォームがとうとう動き出した。今月末から施工が開始、3月の終わり頃には生まれ変わった家を拝めるらしい。
四半世紀をこの家で過ごしてきて、精々変わったのは風呂桶(父がもたれたら根元から割れた)と湯沸かし器(何故かついでにぶっ壊れた)くらいのものだから、それはもう大変革と言うか、産業革命である。
リフォームされた我が家の完成予想図はモデルルームさながらで、まあ全てが全て新しく綺麗になるらしい。水清ければ魚棲まずとは言うが、長いこと汚い家の汚い部屋を這い回っていた僕だから、あまりにも綺麗になり過ぎると逆に病気になりそうな気がして心配している。だから、これからも今までと変わらず積極的に散らかし汚し続けてやろうと思う。

工事中の2ヶ月間は当然仮住まいに移らないといけないわけで、僕にとっては人生初の引っ越しである。
この三連休、一家総出で家中の荷物を選別した。要らないものは捨て、手元に無くていいものは段ボールに入れて近くのコンテナに預け、家は一気にがらんどうとなった。何故これを年末にやらなかったのか。願わくば僕がいない間に全部済ませてほしかった。
その合間に見に行った仮住まいはトタンも錆びた木造の二階建てで、室内と外の気温差が無かった。隙間風も吹いてくる。これはまずい、生死に関わる。
これから一週間かけて、残った家の荷物をそっちに持って行く。隙を見て、新しい毛布を買い足そうと思う。電熱式のすぐ温まるやつを買って、家にいる時はそれにくるまって一歩も出ない。これで2ヶ月やり過ごして、風邪も引かずコロナにもかからないで春を迎えたい。

二輪

今年の目標は中型二輪の免許を取ってバイクに乗ることである。今のところそれしか無いので、それを達成してしまえば今年はいくら遊んでも差し支えないことになっている。幸せな人間も極まっているのだ。
年末の時点で、教習所には申し込んだ。去年の春の緊急事態宣言で教習を受けられていなかった人の分が夏以降に後ろ倒しになってしまった関係で、新規の受付もそれだけ後ろに伸び、僕の番は2月の半ば以降とのことだった。こればかりは仕方が無い。
僕の運転がゲロカスじゃない限りは春には卒業できる見込みが立つので、そのくらいにまでバイクを納車できればいい。今までの人生で一番高い買い物である、車種に関しては大分前からアレコレと考えていた。

・免許的に400CCが上限
・新車=現行モデルの方が初心者としてはいいだろう
・それも正規ディーラーの店で買った方がいいだろう
・車検はあっても無くても別にいい
・そこまで速くなくとも下道をのんびりと走れればいい
・泊まりでツーリングしたいからある程度積載が見込めるものがいい
・重過ぎるのは厳しい
・外車は維持費が厳しいから国産が前提
・ネイキッドは好み的に最初から勘定に入れず
・フルカウルはカッコいいけど転んで割れたりしたらショックが凄そう
アメリカンは国産の現行が皆無な上に唯一残るレブルも人気過ぎてかなり待たされる
・オフ車は軽いし頑丈そうだし積載も問題無さそうだけど何かこう
・何かこう、ねえ?

考え過ぎてこのザマである。上の条件を全て満たすバイクなんてあるわけがない。高い買い物を前にした時の、僕の悪い癖が見事に露呈した。
そもそも実車を見ないと話も始まらぬということで、自宅から一番近いYSPに行く。そこには去年で生産終了したセローのファイナルエディションが展示車としてあることを知っていた。
実際に見たセローは写真で見た何倍も存在感があってカッコいい。店の人に頼んで跨らせてもらい、足付きも問題無く、俺はこれを買うんだろうなあという気分になりかけた時、店の隅に売約済みのSR400が停まっているのが目に入った。
SR400、40年近く形を変えずに現行モデルに残り続けている生きた化石のようなクラシックバイク。このご時世にセルも付かず、キックスタートオンリーの超偏屈なバイクだが、僕が昔から持っていた「これがTHE バイクって感じ」的なステロタイプ像とドンピシャなデザインだったので、かなり早い段階から候補に入っていた。

「やっぱりアレって人気なんですか?」
「今年最終モデルなんで、プレスリリース前に仮押さえしてる人が結構います」
「もうそういうこともできちゃうんですか?」
「連絡先を頂ければプレスリリースの段階でお知らせしますよ」
「そんな人気で買えちゃうもんなんですか?」
「レギュラーモデルなら買えなくなるってことは無いかと」
「250CCとの維持費の差ってどのくらいになるんですか?」
「そんな大した差は無いです」
「キックスタートって慣れれば行けちゃうもんなんですか?」
「皆ちゃんと慣れるから大丈夫です」

この質問責めにオチは無い。
最終的には店員さんの「最初の段階でカッコいいって思っちゃったなら、それを買った方がいいですよ」という言葉で「ああ、そうだよなあ」と思ってしまった。
思えば、とりあえずレスポールを買おうと思って行ったギター屋でファイヤーバードに一目惚れした時も、店員さんに同じようなことを言われた覚えがあった。最終的にそれは間違ってはいなかった。

店員さんに連絡先を伝え、名刺とSRのパンフレットを貰い、案内があったら連絡しますよとの言葉を貰って帰った。この段階で9割方、SRに乗ることが決まってしまった。
このままうまいこと行って、春か夏かは知らないが、いざ僕が買ったSRと対面した時はもう感極まって泣くかもしれない。この頃は本当に簡単なことで泣いてしまうので、本当に気を付けないといけない。
とりあえずは、今月あるとされているヤマハからのプレスリリースを楽しみにしている。その前に免許を取れって話だよな。